鉄道が世界遺産、スイスのレーティッシュ鉄道ベルニナ線に乗ってみた

人生で一番景色が良かった路線は?と聞かれるとスイスのベルニナ線を思い浮かべます。今回は絶景のベルニナ線のお話です。

レーティッシュ鉄道ベルニナ線

レーティッシュ鉄道(RhB: Rhätische Bahn)はスイス東部にある私鉄の鉄道会社です。スイスは高い山々に囲まれた急峻な地形、そして数多の湖が広がる風光明媚な場所で何処を旅しても美しい景色が楽しめます。その中でもとくに景色に秀でていており、20世紀初頭の技術を存分に投じたレーティッシュ鉄道のアルブラ線(Albulalinie)、ベルニナ線(Berninalinie)は世界遺産に認定されています。

ベルニナ線はイタリア北部国境の街ティラーノ(Tirano)からスイスのサンモリッツ(St. Moritz)までを結ぶ61kmの路線です。61kmというと鉄道路線としては比較的短距離な路線になりますが乗車時間は約2時間半にもなります。

なぜそんなに時間がかかるのか、その理由はベルニナ線の高低差にあります。路線内の高低差はなんと1824mにもなり、最高地点では標高2253mにもなります。

この標高差は日本で例えると御殿場から富士山の5合目まで鉄道が走っているのと似たような傾斜になります。

そのような高低差がある鉄道は技術的に建設が非常に困難となりますが、スイスではそれを1910年に完成させました。このような路線は現代で作れば長大なトンネルを一本掘ってしまうという建設になりますが、1910年当時では長大なトンネルを掘る技術はありません。そのため狭い山肌を縫うように、高低差をできるだけ減らすように迂回をしたり、さまざまな方法で課題をクリアした結果美しい景色が楽しめる路線になりました。

今回はそんなベルニナ線に乗って景色を楽しむお話です。

ティラーノまでのアクセス

ベルニナ線に乗車するためにはスイス側のサンモリッツ駅、もしくはイタリア側
のティラーノ駅に向かう必用があります。

今回はイタリア側ティラーノから乗車します。

ティラーノは田舎町でありアクセスが良いとは言えません。一番簡単なアクセス手段はミラノ中央駅からトレノルド(Trenord)というローカル線で向かいます。

乗車時間は2時間半ほどで終点まで乗車します。

ミラノ中央駅を出た当初は立つ場所にも困るくらいに混んでいましたが1時間半ほどするとかなり空きました。

ティラーノに到着すると乗ってきた列車はまた折り返しミラノ中央へと向かうようです。終電がその次の20時という所からも都会ではないことが感じられます。

ティラーノの街

人の気配はあまりありませんが駅前は綺麗です。正直なところイタリア都市部は治安が悪く歩いている時も心が安まらなかったので事件なんてまったくおきなさそうな田舎の雰囲気が落ち着きます。

イタリアということでピザ屋さんには困りません、駅前にも廉価で美味しいピザを提供してくれる店があります。

ティラーノで一泊し翌朝、非常に澄んだ空気を感じられる朝になりました。11月初旬ですがすでに山の方では雪が積もっており気温も10度ほどとなります。東京基準では冬といって良いでしょう。

数日前に滞在していたローマでは23度ほど気温があったので服装が半袖メインと失敗しています。真夏ならいいですが、春秋に訪れるさいには服装は気をつけた方が良さそうです。

レーティッシュ鉄道 ティラーノ駅

レーティッシュ鉄道のティラーノ駅はトレノルドのティラーノ駅のはす向かいにあります。写真の白い建物がレーティッシュ鉄道、黄色い建物はトレノルドの建物となります。

ティラーノ駅に入るとまず目に入るのが日本語の駅名標です。(ティラーノはティラノと表記する場合もあります、本記事ではティラーノに統一しています。)書いてある通り、箱根登山鉄道とレーティッシュ鉄道は姉妹鉄道となっていて非常に仲が良い鉄道会社です。

車体にも箱根と書かれていたり、私は見る事ができませんでしたがデカデカと「箱根登山鉄道」とラッピングされた車両もあるようです。

箱根登山鉄道側でも「ベルニナ号」や「アレグラ号」など愛称の付いた車両が運行されています。

駅構内には長い期間飾ってあるとみられる箱根のポスターなどもあります。とても親近感が湧きますね。

そしてとても日本っぽいデザインのキャラクターまでいます。スイスでもっとも日本語が溢れている駅と言って良いでしょう。日本のローカル線へ乗りに来たような安心感があります。(むしろここ本当に海外か?と疑うくらいです。)

そしてこのグッズを購入するときに「スイスフラン、ユーロ、日本円が使えるけどどれで払います?」と駅員さんに聞かれました。スイスで日本円使えるんだ……(恐らくグッズだけで切符などでは使えないと思いますので注意してください)

残念ながら日本円は持ってなかったのでユーロで決済しました。

ヨーロッパの観光地によくあるのが0ユーロ紙幣の販売機です。各ご当地の絵柄がかかれた紙幣で額面に価値はありませんが、記念グッズとして売っています。紙幣なので普通の紙より耐久性があり保存もしやすいと思います。

画像の通り、3ユーロか3スイスフランで購入できます。このようにスイスでは同じ金額でどちらの硬貨も使えるものが結構あります。ですがスイスフランの方が安いのでスイスメインであれば両替はスイスフランにしたほうが良いでしょう。(もちろんユーロが使えない場所もあるので注意です。)

レーティッシュ鉄道の車両

レーティッシュ鉄道の車両は真っ赤な車体に白いラインのデザインです。編成は長く10両弱程度繋げていたようです。

普通列車は概ね1時間に1本程度運行されているようです。今回私は日に2往復程度運行されているベルニナエクスプレスに乗車します。

ベルニナエクスプレスの特徴は写真のような展望車があることです。見上げるほど大きな窓が配置されている観光車両で2両連結されていました。この観光車両はシーズンによって数が調整されるようでネット上の写真などみると2両は最小のようです。

これ以外の車両では、一等車、二等車の一般的な座席が連結されている物と

自転車を載せることができる二等車を連結していました。日本から自転車を持っていく、というのは厳しいかもしれませんが1度使ってみたいですね。

また時間によっては貨物列車も連結することがあるそうです。昔は日本でも旅客列車に荷物列車を連結し、貨客混載で列車を運行していた頃もありましたがレーティッシュ鉄道では現役で貨客混載運転を実施しているようです。前述の通り非常に急峻な地形を走るので車より優位なところが残っているのでしょうか。

ベルニナ線の車窓

2両しかない観光車両は満員御礼で発車しました。雨が降ってきたので大きな窓にも水滴が付いてきました。これは写真のピント合わせが大変になりそうです。

机にはレーティッシュ鉄道の路線図がプリントされていました。奥の電光掲示板に表示されている駅名と照らし合わせていけばいまどの辺りを走っているのかがわかるので便利です。日本でも使われる特急列車は概ね路線毎に分かれているので机にプリントしたら良いのではないかと思いました。

ベルニナ線はティラーノ駅を出てすぐ併用軌道、つまり路面電車みたいに走り始めます。(写真は昨晩撮影した物です。)

この列車、10両くらいあるんですがそれが道路を走る……初っぱなから絶景というか絶句な光景です。日本だとせいぜい4両くらいでしょうか。

ですが並行軌道区間も僅かですぐ普通の鉄道のように独立した線路を走るようになります。ティラーノ駅から15分程度ですでに山、畑、霧と自然豊かな車窓になります。

ティラーノから20分もせずにベルニナ線で一番有名なポイント、ブルージオのループ橋にさしかかります。

ベルニナ線は非常に勾配が急なのでループを描いて勾配をなるべくなだらかにして走って行きます。原理としては急な坂を自転車で上るときにジグザグ走行するのと似たような感じです。日本でもループ構造になっている路線はありますがこのループ橋ほどコンパクトに回転している物はないのでここならではの景色だと思います。

このループが見えるとすでにイタリアを出てスイスに入っています。スイスはEU参加国ではないですがシュンゲン協定加盟国なのでイタリアから入国する場合、入国審査はありません。

ですが車掌さんとは違う方がパスポートチェックにやってきました。もしかするとときどき抜き打ちチェックがあるのかもしれません。ただ数人検査し、私の番が来る前にチェックせず出て行ってしまいました。何だったんでしょうか。

その後も列車は急な坂道を左右首を振りつつ頑張って上っていきます。この写真からも一番先頭の車両と3両目の車両で高さ違い坂道の急さがわかります。

ティラーノから30分ほどでポスキアーヴォ湖が見えてきます。標高が高くなってきたためか雲が低く感じます。青空の景色も素晴らしいと思いますが、雲が低く立ちこめている光景も幻想的で良いです。曇り空だと湖面も灰色になり水墨画のような光景になるのが一般的だと思いますが、ここでは曇り空でも水は青く見え綺麗でした。

列車は湖畔に沿って進んでいきます。車窓を眺めていると線路の横を歩いている人が居ました。どうやら線路にそって湖畔側に遊歩道が整備されているようです。ここの湖畔歩くだけでご飯三杯いけそうな気がするので次の駅で乗り捨てるか?と思いました。雨が降っていたので辞めましたが晴れていれば乗り捨てたかもしれません。

湖畔からまた暫く進むと町が眼下に見え始めました。ヨーロッパの草原が主体の景色だけでも美しいですが、草原から木々の紅葉、そして積もる雪。こんなに美しい季節のグラデーションが見られるとは思いませんでした。

この季節のグラデーションにカメラを向けている人はあまり見ませんでしたがヨーロッパでは季節の変わり目の一般的な光景なのでしょうか。

列車はぐんぐん高度を上げていき先ほどの町が一望できるようになりました。移動距離の対して上昇していく高度が非常に急で自分が今乗っているのが本当に鉄道なのか、ケーブルカーにでも乗ってるんじゃないかと思うくらいです。

高度が上がるとともに季節は進んでいき冬になりました。11月初旬なんですが、そとはすっかり真冬の装いです。繰り返しになりますがつい先日いたローマでは20度を超えていました。

手元の時計をみると気温は氷点下2℃。思えば遠くまで来た物です。

下の方をみると秋の景色が見えます。不思議な感覚です。

もうしばらくするとさっきまでの秋の景色は何だったのか、雪深い景色が広がります。もうノーマルタイヤでは走れませんね。

JR北海道の僻地みたいな光景ですが見える駅舎は立派な物が多いです。このような僻地に見える場所でも1時間に1本程度列車がやってきますのでかなり恵まれているダイヤです。

この時期でこの積雪ですから真冬の積雪は相当になるでしょう。そのため急斜面地形では雪崩防止のためかスノーシェルターが作られていました。

こんな過酷な環境でも世界で働くホンダの除雪機。雪対策は世界一雪が降る国日本のお家芸のようです。

出発から約1時間半2つ目の大きな湖、ラゴ・ビアンコ湖が見えてきます。今この湖に落ちたら1分経たず死ぬでしょう。この湖、上記のGoogle Mapsに登録されている写真を是非見て頂きたいのですが真冬の凍り付いた湖、夏のエメラルド色の湖と美しい景色が並んでいるます。次来たときは晴れている日にここで下車します。心に決めました。

列車はその後も雪景色の中を走ります。先ほどのラゴ・ビアンコ湖が旅路の最高標高地点になりその後は1時間もなく終点サンモリッツへと下っていきます。

サンモリッツ駅

サンモリッツの駅は運行の拠点駅のようで多数の車両が留置されています。先ほどまでは温かい車内にいたのですが外は完全な真冬でコート無し、秋物コーデの状態では死にそうです。

寒さに耐えるにはカロリーが必用なので駅の自販機でカロリー補給です。海外の自販機は食べ物も豊富でいいですね。大体の自販機がクレジットカードで決済できますし、Apple Payなどでの非接触決済も使えます。ただし5回に1回くらい商品がちゃんと出てこない印象があります。

ワッフルを買ったのでこれで寒さに耐えながら鉄道見学ができます。……いやワッフル程度ではどうにもならない寒さなので駅舎に引っ込みます。

駅舎に入って切符売り場に行くと、どん!と先ほどティラーノ駅で見たキャラクターの等身大パネルが置いてあります。実はここ日本の北海道なのではないか?って思いました。絶対この子、鉄道むすめシリーズだと思います。

駅ではさまざまなお土産品が売ってますがしっかりキャラグッズも売っています。名前はのぞみさんらしいです。時速280kmくらい出せそうですね。

この辺りは山で木がいっぱい生えているためか木工が盛んなようです。自動販売機で買える木工製品は初はじてみました。

駅の中は大きなコンビニがありここで必用な物はだいたい手に入りそうです。生肉などの生鮮食品やイヤホンや充電器まで売っています。駅舎に入ってる店ですが地元の人の買い物利用が結構ありそうです。

ここサンモリッツは湖畔のリゾート地のようです。リゾート地なので宿泊施設も充実していて温泉施設もあるそうです。次回来るときはここを拠点にぶらり途中下車の旅を行いたいですね。またこの街は北海道の倶知安と姉妹都市のようで景色通りに北海道とは縁がある土地のようです。

この街で一日くらいのんびりしたいなという思いは強いですが、こんなに良い場所だとは思っていなかったので滞在時間は1時間もない程度で次の町Churへと急ぎます。次は絶対にノンビリしてやる!

乗車方法

ベルニナ線に乗車するにはまず乗車券が必要です。一等車で56スイスフラン、二等車で32スイスフランがティラーノからサンモリッツまでの運賃になります。

今回乗車した窓の大きな専用列車は指定席のため指定席券が必要です。指定席の値段は時期により変わりますが高くて16スイスフランのようです。私が行ったときは超閑散期だったのか5スイスフランで予約ができました。

指定席券の購入方法

指定席は当日空席があれば窓口で購入できますが、大人気列車のため事前に予約するのが無難です。

レーティッシュ鉄道公式HP

で予約が可能です。予約ページは英語になりますが路線がシンプルなので予約は難しくないと思います。座席も選択可能なので良さそうな席を選びましょう。

またスイス国鉄のサイトでも予約可能なのでレーティッシュ鉄道の前後にスイス国鉄列車にも乗車予定であれば纏めて取るのもいいかもしれません。

予約後のPDFは日本で紙に印刷して持っていきましょう。紙の方が車掌さんに見せやすいです。

乗車券選び

乗車券は早割などがないので当日駅購入がシンプルだと思います。しかし、スイスひいてはヨーロッパまで来てレーティッシュ鉄道しか乗らないという観光を選ぶ人は少ないと思います。

スイスを満喫するのであればスイストラベルパスがオススメです。スイスの幅広い交通機関が乗り放題になり、美術館博物館なども無料になります。

連続して有効な物と、期間内の任意の日数で使える物があるので旅行に合わせて選べます。

スイスを含めヨーロッパ各国を旅するのであればユーレイルパスがオススメです。ヨーロッパ各国の多数の鉄道が乗り放題になりますので自由度はとても高いです。ただし、スイストラベルパスと違って博物館などは無料になりませんし、市電など市内交通は乗り放題になりませんのでスイス中心の旅行であればスイストラベルパスの方がオススメです。

乗り放題切符は乗車券のみ有効のため指定席券は別途購入が必用です。

どちらの乗り放題切符にも一等車と二等車2つのプランがあります。個人的には一等車プランをオススメします。

日本ではグリーン車、普通車の違いは空いていて座席も豪華で快適、程度の違いしかありません。ですが海外では一等車と二等車で治安が違います。清掃なども日本ほど行き届いてないので目をしかめたくなる光景もあります。一等車はこのあたりがましなので日本で普通車に乗る感覚で使えます。

スイスは比較的治安が良いので二等車でも問題ないかもしれませんが、折角遠い国まで旅行に行くので少しでも気分良くすごしたい物です。

また一等車、二等車の切符の価格差はパスの日数にもよりますが1〜3万円程度です。ヨーロッパまで行く航空券の価格に比べればたいした値段差ではありませんので思い切って一等車のパスを買うことをオススメします。

最後に

ベルニナ線に乗車するにあたって今回の観光列車はオススメか?と聞かれると手放しにオススメはできません。

勿論大きな窓から見る沿線の景色は素晴らしいですし、真上まで見られる広大な窓がある車両は珍しく一見の価値があります。

しかしデメリットとして、人気があるので混んでいる点があります。今回一緒に連結していた普通列車はガラガラでした。観光列車では確かに窓が大きいですが、満員だと席を移動できません。ガラガラの一般車であれば左右両方の景色を好きなように見られます。

また一般車は窓が開けられます。窓が開けられればより綺麗に写真が撮れるでしょう。

結論として一番は空いている一等車の一般車両に乗るのが良いのではないかと私は思います。次回訪れるときはガラガラの一等車を狙い童心に返って左右の窓を往復する事でしょう。


本記事は2019年11月現在の情報を元に記述されています。